本研究は、魏晉南北朝時代における注釈学の実体を通時的に把握することを目標としているが、本年度は、特に南北朝時代後半の注釈学の解明、及び次世代への展開に関する問題に焦点を絞り、研究を行った。 北朝における儒学は、隋の時代、劉〓・劉〓の二人により大成されたと考えることができ、その後、唐代初期において『五經正義』が編纂された際にも両者の手になる「義疏」と呼ばれる注釈書がその基礎となった、とされる。しかし現段階において、劉〓の義疏資料がすでに十分な学術的検討を経たとはみなし難いように思われる。京都大学に全体の四割程度が伝わっている『孝經述議』は、伝存する劉〓の義疏としては唯一のものであるが、本年度は本書につき書誌学的、思想史的研究を行い、平行して同書のテキストデータ化をほぼ完了させた。 さらに、『孝經』注釈史において、唐の玄宗による国定の『孝經』注解たる、『御注孝經』『孝經疏』の兩書が、実は『孝經述議』の大きな影響を蒙っている事実を明らかにし、「『孝經』玄宗注の成立」としてまとめた。またそれに先立ち、臺灣中央研究院において、「略談『御注孝經』的日本伝本」と題する研究発表を中国語にて行った。これら二つの研究成果により、北朝末から唐代にかけての『孝經』学の歴史の一面を展望しえたものと考える。
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