今年度の研究は、以下の二点を軸にして遂行された。 (1)言葉と超越の問題 「神の死」と絶対的な悪の露呈という状況に面して、哲学と宗教の双方が問い質されるなかで、その問いの次元で浮かび上がる宗教哲学の可能性を探ることが、本研究の基本的問題関心であるが、本年度はとくに、それを「言葉」の問題との結びつきにおいて追求した。具体的には、デリダの「エクリチュールの思想」、レヴィナスの「原言述」としての倫理、ブランショの「文学空間」論などを手掛かりにし、その背後に透かし見られる特異な宗教的思索にも迫った。こうした作業のために、かれらの著作、二次文献はもちろんのこと、現代における宗教と哲学の状況を全体的に捉えるための文献が多数必要になり、設備費の大半はそれに充てた。 (2)ナベールの遺稿研究 上述した問題関心と密接に結びつく知られざる思想家として、ナベールの思想の研究も、本研究の柱の一つになっている。その点で、パリカトリック学院哲学部で現在設備中の「ナベール文庫」と連繁して研究を進めている。今年度は、2000年3月に当地に赴き、文庫の整備状況を聞いたり、手紙や貴重な二次文献を閲覧したりした。ナベールは神論を完成しないまま世を去ったので、その全貌は晩年の遺稿の一部から出版された『神の欲望』を通して垣間見られるのみであり、本研究にとっては、パリのナベール文庫と連繁した作業が、今後もいっそう必要になるであろう。
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