本年度はクローン技術の人への使用について、現時点の状況を調査し、問題点を整理することを試みた。さらに体細胞核移植クローン技術の人への使用に関する倫理問題をできるだけ広い視野から検討し、この問題を生命倫理に関する諸議論の中に位置づけることを試みた。具体的には、ヒトゲノム解析、遺伝子診断と雇用差別・保険差別、医療情報のプライバシー保護、ターミナルケア、遺伝子操作、さらに体外受精等の人工生殖技術との関連から、クローン技術の人への使用の倫理的含意を明らかにすることを試みた。このようにしてクローン技術の人への使用を遺伝子操作技術全体の中に位置づけ、それによって人間に対する生命操作技術の使用に関する規制について、倫理的分析を行うための図式を提示することを試みた。 またクローン技術等を含めた先端科学技術と社会との関連、特に科学技術者の社会的責任の意味と、市民による科学技術のコントロールの方法に関する研究を行った。さらにメタ倫理学的な研究を始めとした哲学的思考は、生命倫理研究に対してどのような形で貢献しうるかという問題に関する研究を行った。 このような研究を経て、体細胞核移植クローン技術の人への使用に関する倫理問題を、「特定の表現形質を持つ児の意図的産生を目的としたクローン技術の使用」「<生殖>の自由に基づくクローン技術の使用の正当化」、「クローン技術と生命倫理政策」さらに「体細胞核移植技術とES細胞(胚性幹細胞)の使用」といった問題圏に分類し、これらの問題に関する倫理的研究のデザインを行うことを試みた。
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