2年めにあたる今年度は、まずウェーベルンやヴァレーズの「音色旋律」の構想が、同時代の他の諸芸術における「線的なもの」志向といかに関連しているかが調査された。世紀転換期におけるゲーテ・ルネサンスの影響下にある当時の共感覚志向及び蟄術の純粋化によって、音楽的なものの摂取につとめ抽象絵画の道を開拓した(「線的なもの」を重視した)カンディンスキーの構想における「線」概念は、音楽美学史上Energetikerとされるエルンスト・クルトの影響が非常に色濃く表れていることを検証した。特に、線は動く点の軌跡、つまり点の所産であり、線は運動から生まれるとするカンディンスキーの理念には、点描主義の祖とされるヴェーベルンへの共通点が見いだされた。また、ヴァレーズの音楽における、時間的な連続性に依拠するだけでなく空間的な連続性のもつ運動のエネルギー的緊張感の重視は、彼が「未来派」との関係を否定してはいても、やはり、ボッチョーニの「立体的なダイナミズム」との類縁性を浮かび上がらせていることからも、「音色旋律」的発想は、旋律のもつ従来の拍節的構造による時間支配から、音色というパラメータの導入によって空間的支配への拡張をはかったものであることが明らかになった。さらに、昨秋の美学会第51回全国大会(於京都市立芸術大学)において「トポスとしての「線」と「旋律」〜Energetikerの旋律論をめぐって〜」と題して研究発表を行ない、クルトが1917年に世に問い、多大な影響を与えた「線的対位法」という概念と、やはりEnergetikerの一人と目されるハインリヒ・シェンカーの『対位法』における「線」的概念について、Energetikに通底する「緊張」という基本的概念から再照射することによって、時代のトポスとしての「線」および「旋律」概念とEnergetik的理論形成の相関関係を考察し、心理学的共通基盤が両者に通底していることを明らかにできた。
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