20世紀のシュルレアリスムにおいて不意に復活し、しかし理論的な洗練をなんら経過することのないままそのまま立ち消えになる「窓」の概念を、おもに初期アンドレ・ブルトンのテクストから出発して分析することに費やされた前年度の作業に対して、19世紀に出現したイメージのいくつかが、じつはすでに「見ること」の機制それ自体を逸脱するものであったこと、「窓」の透明性とも「スクリーン」の不透明性とも異なる、むしろ「盲目」と「痕跡」ともいうべき主題系に属するものであったことに積極的な意義を認め、ボードレールをはじめとする批評、絵画作品、写真装置と写真イメージ、痕跡の想像力(たとえば探偵小説)、哲学や科学における盲目性の言説といった脱領域的な対象をつうじて「非=イメージ」の表象の歴史を立ち上がらせるということが、今年度の主たる目標となった。むろんすべてを検討しつくしたわけではないが、しかしその部分的な成果は現在まとめの段階にさしかかったところである。 当初の予定では、(1)とりわけマグリットによって代表されうる北方シュルレアリスムにおける「窓」のイメージとその機能、(2)劇場における透視図法の導入、以上2つの問題を検討することで、西欧の表象文化史における「窓」のイマジネールに関して不十分ながらも暫定的な総合的結論を提出することが目指されていたが、まず第一に前年度の研究成果の欠落そのものを生産的に転化するため、そして第二に、これら2つの主題を十分に消化するには研究期間が不足することが判明したため、計画がやや変更された。
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