本年度の研究活動としては、これまでに調査を進めてきた京都市・遣迎院阿弥陀如来像の像内納入品資料を影印並びに解題を付して公刊した、(国際日本文化研究センター刊 『遣迎院阿弥陀如来像像内納入品資料』)これは鎌倉時代に活躍した仏師快慶による作例の像内納入品資料の影印化としては本邦では初めての資料集となるものである。 また、大阪市・一心寺に伝来する鎌倉時代初期の結縁経、並びに高野山金剛峯寺に伝来する板彫胎蔵界曼茶羅の背面に記された結縁交名の内容が遣迎院阿弥陀如来像のそれと類似していることが確認されたことから、この三点の資料が成立する背景には共通する宗教的共同体の存在があることを指摘した。 さらに、やはり鎌倉時代初期に活躍した天台僧で説教師としても著明な安居院澄憲(1126?〜1203)・聖覚(1167〜1235)といった人々が、快慶並びにその弟子行快による作例に結縁していることから、中世初期における造像勧進の場においてこうした職能民や芸能者が結集する場について再現的な視点から考察を加えた。(「安居院澄憲・聖覚をめぐる造像-中世説教師研究の新視点-」) また、快慶による作例から確認される像内納入品の特色について、その時代による変遷と他の納入品資料との比較を通じて考察を試みた。(「快慶作例を中心とする中世結縁交名の比較研究」)
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