これまで像内納入品に関する研究は美術史的な視点を中心として進められてきたが、本研究ではさらに歴史・宗教・文学・民俗といった学際領域においても活用しうる資料としての可能性を検討することを目的としている。本年度は快慶作岡山・東寿院阿弥陀如来像の像内納入品資料の調査ならびに資料化の作業を進めた。特に本資料は快慶晩年の作例であると同時に、東大寺復興造営終焉後の快慶をめぐるネットワークが、京都方面における勧進の場へと展開して行く様子を如実に伝える資料として注目されるものである。(『日本彫刻史基礎資料集成鎌倉時代2』所収予定) また京都・遣迎院阿弥陀如来像など快慶作例の像内納入品資料の結縁交名より『平家物語』の創作に関連の深い人物群像のあることを契機として、その成立の背後にある念仏信仰を介した勧進のネットワークとその血縁的な構図を明らかにした。(「『平家物語』作者論をひろげる」『印度学仏教学研究』)さらに中世東大寺における宋人技術者陳和卿・伊行末たちの動向に着目し、その背後にある大勧進職と職能民たちの動向、特に周防・播磨などにおける活動状況について東大寺龍松院文書など未公刊資料の調査を通じて検討する一方、『東大寺続要録』などの校訂の作業を行っている。
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