本年度はパウル・クレー批評に関して二つの側面からアプローチした。 一つは、1925年以前のドイツ語圏に於けるクレー批評の実体を、テオドール・ドイプラー、ヴァルデマール・ヨロス、レオポルト・ツァーン・ヴィルヘルム・ハウゼンシュタインに拠る、公刊、未公刊の資料に基づいて明らかにした。今ひとつは1925年以降のフランス、シュルレアリストたちによるクレー受容の様相を、トリスタン・ツァラ、マックス・エルンスト、ルイ・アラゴン、ポール・エリュアール、就中、アンドレ・ブルトンの残した数多くの資料から再構成した。この二つのアプローチによって、 1)、ドイツに於けるクレー批評、とりわけ1920年以前の、多分に幻想的、空想的な作品群に対するクレー批評が1925年以降のフランス、シュルレアリストたちのクレー批評に殆ど無批判的に踏襲さえたこと、 2)、アンドレ・ブルトンのシュルレアリスム絵画全般に対する「定義」にクレーの芸術理論が色濃く反映していたこと、 が明らかになった。
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