研究概要 |
本研究の目的は、我々の視覚系が、この世界を構成する事物の様々な特性(世界を構成する事物の形状や色彩、明るさ等)についての統計的情報を有しており、その情報に基づいて視覚的リアリティーについての判断を行っているはずだ、という仮説を検証することである。今年度においては、視覚系が世界についての統計的情報を有しているに違いないという、上記の仮説の前半部分の妥当性を検討するための実験心理学的研究およびシミュレーション研究を、画像を構成する要素の中で最も基本的なものである陰影情報に注目しつつ実施した。陰影情報から形状を推定するには、物体の形状と画像強度との関係を表した反射率地図(物体の材質、照明条件などの様々な物理特性をパラメータとして持つ関数として定義される)が必要であり、視覚系も反射率地図を用いていると考えられる。そこで、Seyama and Sato(1998,Vision Research)で提案された原理に従い、様々な刺激条件で視覚系が用いている反射率地図の推定を行った結果、視覚系が用いている反射率地図が刺激条件に応じて変化することがわかった。次に、この実験結果をコンピュータシミュレーションの技法を用いて分析した。まず、材質、照明条件、形状が様々に異なる物体が観察される状況を想定し、反射率地図についての統計的情報を求めた。この統計的情報を用いると、反射率地図が刺激条件に応じてどのように変化するのかを理論的に予測することができる。その結果、この理論的予測と実験結果が極めてよく一致することがわかった。この結果は、視覚系が世界についての統計的情報を持っており、その情報をもとにして知覚情報処理を行っているはずだという観点を強く支持するものである。なお、次年度は、この成果に基づき実際に視覚的リアリティーについての評定実験を実施する予定である。
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