本年度は、人物の顔画像を用い、その顔のリアリティーの評定実験を行った。刺激画像は、デジタルカメラで撮影した人物の顔写真で、この顔画像の一方の目の垂直位置をずらし、顔を歪ませることで顔のリアリティーを操作した。目の位置が大きくずれた顔画像ほど、リアリティーの低い顔として判断されるはずである。そこで、目のずれの量の異なる複数の顔画像を用意し、それらを被験者に繰り返し提示した。被験者は、それらの顔画像が自然な顔であるか、それとも、実際には殆ど見かけることのない顔であるかを判断するリアリティー判断課題と、単純に左右の目が水平に並んでいるかどうかを判断し、どちらの目がより「高いか」を判断する位置判断課題を行った。位置判断課題の結果は、被験者が目の位置のずれに対して極めて敏感であることを示していた。しかし、リアリティー判断課題での被験者の判断は、目の位置ずれによる影響が位置判断課題に比べて緩やかであった。すなわち「目の位置が明らかにずれているが、自然な顔である」と判断できる状況が存在した。いずれの課題も、基本的には目の位置のずれの量を判断する課題とみなすことができるが、今回の結果は、リアリティー判断を位置判断課題の様な単純な幾何学的判断とは異なる心的過程として検討していくべきものであることを示している。今回の実験状況では、被験者はこれまでに観察してきた様々な顔から抽出した、目の配置についての統計的情報を参照しながら、リアリティー判断課題を行っていたと解釈できる。しかし、顔のような既知の物体ではなく、未知の物体の画像に関しても、我々はリアリティーの判断が可能である。例えば、SF映画などで、架空の物体のCG画像を見ても、そのリアリティーを判断できる。このような状況でのリアリティー判断に関して検討することが今後の課題となるであろう。この実験の一部を基礎心理学会第19回大会で発表した。
|