(1)棒状の物体を把握している位置の違いを、目で見ることなく、しかもその物体をはじめに把握した位置から手を滑らせたり持ち替えたりすることなしに(ダイナミック・タッチによって)知覚できるかについて検討した。実験には、長さ60cmの木製の棒を使用した。この棒を被験者に手渡し(物体はカーテンで隠されており、被験者からは見えない)、その棒を把握している位置を被験者に報告させた。被験者が棒を持つ位置は5つの位置からランダムに選択し、提示した。被験者による報告は、実験材料で用いたのと同じ長さの棒を被験者から見える場所に提示し、手で棒を把握している位置を被験者によって指示させる(報告用の棒にとりつけられたマーカーを用いる)方法で行った。その結果、被験者が棒を実際に把握している位置と、報告した位置とはリニアな関係となっていることが確認された。 (2)目で見えないように隠された位置で把握している棒状の物体の「向き」を知覚することができるかどうかを確認するための実験を行った。被験者の課題は、目で見ることができる目標を、手で持った、目では見えないように隠された棒で指示することとした。指示する目標の方向は5種類とし、どの目標を指示するかの順番はランダムとした。実際の目標の方向と、見えない位置で手に持った棒によって指示した方向とのずれを記録した。その結果、棒による指示が極めて正確に行なわれていることが確認された。また、実験においては、被験者が持った棒のオイラー角の変化を、ジャイロセンサーとコンピュータによって記録した。その結果から、被験者は棒によって目標を指示する際、棒を目標に向けるのとは直接関係ないと思われる「棒の方向を探るような動き」を行っていることが示唆された。 次年度は、これらの結果を踏まえ、とくに手に持った棒の方向を知覚する際に行われる手の運動について、より詳細に検討してゆく。
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