研究概要 |
本研究では,視覚的に呈示されるカタカナ表記語の認知過程において,正書法的類似語が及ぼす効果と音韻的類似語が及ぼす効果とを分離した上で解明することを目的としている.正書法的類似語とは,同一の表記形態を親近性の高いものとする単語のうち,当該単語を構成する一文字を他の文字に変更することによって作成可能な単語を指す.これに対して音韻的類似語とは,表記の親近性に関わらず同一の拍数からなる単語で当該単語を構成する一拍を他の拍に変更することによって作成可能な単語を指す.さらにこれらの類似語の定義の際の基準として,音素,すなわち母音あるいは子音のいずれかのみを提案し,こうした類似語が当該単語の認知過程に及ぼす影響を検討する.こうした検討を行うために,NTT日本語データベースに基づいて,カタカナ表記語を選定する作業を進行中であり,現時点では完成していないが,来年度には資料として発表する予定である. この一方で,こうした客観的な基準に基づいたカタカナ表記語の類似語数の多寡が,実際にヒトが想起可能な類似語数の多寡と対応しているのか否かを質問紙によって検討を行った.カタカナ3文字語を構成する一文字を空欄(□)にすることによって,カタカナ3文字語を産出するための手がかり刺激を作成し,これらの空欄に当てはまる文字を制限時間内にできるだけ多く想起するという課題を被験者に課した.空欄とする文字位置として,最初の一文字,真ん中の一文字,最後の一文字の3条件が設定された.広辞苑第四版に基づくカタカナ表記語の調査から類似語数を算出した川上(1998)の資料に基づき,実在するカタカナ表記語の数と被験者が想起するカタカナ表記語との対応が検討された.両者の間には,いずれの空欄位置条件においても有意な相関が認められた.
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