研究概要 |
ニホンザルを対象にした実験は,2個体の人工保育群と,2個体の自然母子飼育群を対象に行った.人工保育群では,出生直後から生後2日間までの行動観察を行い,さらに生後6ヶ月まで,週2回の実験を行ない,発達初期に母親役の飼育者の顔を見る時間数と,飼育者の顔に対する好みを調べた.母子飼育群でも,生後2日間までの行動観察と,生後6ヶ月まで週1回の実験を行い,発達初期に母親サルの顔を見る時間数と,母親サルの顔に対する好みを調べた. ヒトを対象にした実験は,4名の被験者を対象に,生後10ヶ月まで,家族と主に母親の顔に対する好みを調べる実験を行った. ヒトを対象にした実験データから,既知顔の認識発達過程に2つの段階があることが判明した.第1の段階は生後3ヶ月に生じ,この時期はあらゆる顔を好んで見るため,既知顔に対する学習期と考えることができる.第2 の段階は生後10 ヶ月に生じ,既知顔に対する好みが成立することから,既知顔に対する学習完成期と考えることができる.このような経緯をたどってヒトの既知顔認識は学習されることが判明した. ニホンザルのデータは現在解析中ではあるが,ニホンザルはヒトと比較して,顔に対する好み自体が低い可能性が示唆されている.顔に対する興味の大きさの違いが,ニホンザルとヒトとの顔認識の違いを生み出している可能性が考えられる.次年度は,ニホンザルの既知顔認識の発達過程をより詳しく検討し,ヒトの顔認識の特異性を明らかにしていきたいと考える.
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