研究概要 |
1.透視射影情報を考慮した運動立体視モデルとその心理学的妥当性 本研究では,物体が投影される際の透視射影の効果に基づいて,画像上の運動パターン(オプティカルフロー)から物体の3次元運動情報と形状情報を抽出する運動立体視の計算モデルを構築した.更に,透視射影の効果は周辺視野ほど大きいことを考慮し,大視野(視角60度)のディスプレイを用いてモデルを検証する心理物理実験を行った.その結果,大視野場面でのオプティカルフローからの形状知覚特性はモデルからの予測に合致することが示された.従来の小視野のディスプレイを用いた研究では,人間の運動立体視において透視射影の情報は使われていないと主張されてきたが,本研究によって,大視野場面では透視射影情報が運動立体視に有効に利用されていることが明らかとなった. 2.両眼立体視及び運動立体視からの自己運動情報と環境の空間的記憶 本研究では,両眼立体視及び運動立体視によって与えられる身体方位の変化を示す自己運動情報が空間記憶の身体方位依存性に及ぼす効果について,バーチャルリアリティ環境を用いた心理実験により検討した.被験者は特定の身体方位から物体の配置を学習し,学習時と同じあるいは異なる身体方位からの物体配置について判断を行った.学習時と異なる身体方位における判断は,身体方位の変化をシミューレートした自己運動情報を与えた場合の方が与えなかった場合に比べて正確であった.さらに,自己運動情報を与えて判断を行うことにより,物体配置の記憶が身体方位に不変なものへと変容することが示された.これらの結果より,立体視系からもたらされる自己運動情報が環境の記憶表現を動的に更新すること,及び更新された空間イメージにより人間の空間知識の獲得が促進されることが明らかとなった.
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