視覚系は途切れた輪郭から完全な輪郭を補完する機能を有している。本研究においては、視覚的ファントム(visual phantom illusion)の研究をさらに推進し、新しいタイプのファントム「明所視ファントム(photopic phantom illusion)」を発見した。明所視ファントムの分析を進めた結果、いろいろな性質が明らかになった(透明視・立体視との関係など)ので論文の投稿に至り、Perception誌に掲載された。明所視ファントムはこれまでのファントムとは異なり明るいところでも十分に知覚できるため、補完の形状が一目瞭然である。このため主観的輪郭形成のモデルの研究に有用で、主観的輪郭は3次のベジェ曲線として形成されるという仮説を立て、現在検証中である。さらに、明所視ファントムからネオン色拡散(neon color spreading)への適用を研究中で、ネオン色拡散はファントムと同様の空間周波数特性を持つことがわかり、国際学会(ARVO)で発表予定である(審査を通過)。その他、これまでのファントムは透明視の一種であるunique transparencyによってファントムとして知覚されるというモデルを考案し、検証中である。ステレオキャプチャと補完の関係も研究が進み、壁紙錯視のdepth shiftに関する新しい知見を論文にまとめているところである。これらの研究から、知覚的補完による面形成のメカニズムが次第に明らかになることが期待できる。
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