本研究の目的は、集団主義的行動や集団同一化(アイデンティティ)の基盤となる心理プロセスを異文化間で比較し、その差異と同質性を明らかにすることである。そのため、本年度は2つの実証研究、及び理論的なレビューを行った。ここでは、実証研究の結果について報告する。第1研究では、日米両国の大学生を対象とし、大/小所属集団に対する集団同一化の程度と、その基礎となる集団知覚要因について検討した。その結果、予測通り、1)小集団に対しては日本人もアメリカ人も強い同一化を持つが、2)大集団に対しては、日本人の同一化がアメリカ人のそれよりも有意に弱いことがわかった。しかし、集団同一化の基礎となる集団知覚要因については、予測と異なり文化差が見られなかった一方、集団サイズの違いによる一貫した差異が見られた。すなわち、両国において、3)小集団同一化の最も強い規定因は、自分以外のメンバーとの個人的つながり知覚であったが、4)大集団への同一化の規定因は、自分と他のメンバーとの類似性知覚であった。これをふまえ、第2研究では、サイズと種類が異なる6種類の内集団に対する同一化の程度とその規定因について検討した。その結果、日本人は、数万人から数億人で構成されるような比較的大きな集団に対してよりも、数人から数百人で構成される比較的小さな内集団に対してより強い同一化を感じているということがわかった。また、そういった同一化を規定するのは、メンバー間の個人的なつながりやメンバー間の助け合いといったメンバー間関係に関する認知であり、研究1の結果とは異なり、大集団においても自他の類似性知覚の効果は見られなかった。アメリカ人と中国人のデータに関しては、現在分析中である。以上の結果は、内集団への同一化というものが、文化的文脈と集団サイズの複雑な関数であることを示唆している。来年度はこの点をより深く検討していく。
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