研究概要 |
本研究の目的は「自己複雑性」→「自己呈示行動」→「抑うつ感情」のモデルを検証することである.自己複雑性の測定方法として本年度はまずLinvilleによって開発された方法の妥当性の検討を行った. 被験者100名に対し,自分が日ごろ関わっている生活場面を自由に記述させ(例えば母親と一緒にいるとき,アルバイトをしているときなど),それぞれの場面で自分が表出していると思われる性格特性を,あらかじめ用意された40個の特性形容語(ポジティブ語20個,ネガティブ語20個)の中から選択させ,これをもとにH得点(自己複雑性得点:(Linville,1985)),ポジティブな側面についての自己複雑性得点(PSC),ネガティブな側面についての自己複雑性得点(NSC),記述された総場面数,被験者が実際に使用した特性形容語数(ポジティブ語・ネガティブ語別にもコーディング)等を算出した.この調査では上記の手続きに続いて,被験者自身の自尊感情,抑うつ傾向についても測定した. 抑うつ傾向(BDIにより測定)と各々の変数との相関をみたところ,有意な相関を示したのは抑うつ傾向と被験者が使用したネガティブな特性語数のみであった(r=241,p<05).このことは自己のネガティブな側面についての自己知識が豊富な者は,抑うつ傾向が高いことを示している一方,従来言われていたようなH得点(PSC得点,NSC得点)と抑うつ傾向との関連は認められなかった. また本年度の研究では自己複雑性と自己呈示行動との関連についての検討も含めていたが,上述のように自己複雑性が抑うつとの関連を示さなかったため,今回収集したデータの中からより適切な指標の算出を再検討し,引き続いて自己呈示行動との関連を検討する.
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