研究概要 |
本年度は知的障害者のバランス障害の基礎的特徴を明らかにするために,以下の2点を検討した。 (1) 健常者のバランス機能の加齢変化の検討 地域在住高齢者637名を対象に身体動揺の測定を行った。身体動揺の測定は,直立姿勢を安定して保持できるかどうかを調べるもので,動揺量が大きいとバランス機能が低下していると評価される。測定は開眼と閉眼で行われた。結果は以下の通りであった。1)動揺量は加齢に従って大きくなった。バランス機能の加齢変化が明瞭であった。2)80才までは開眼よりも閉眼でも動揺量の増加が著しかった。80歳以降は開眼での動揺量増加が著しかった。このことから,老化に伴い,最初は視覚機能以外のシステムの機能低下があり,その後視覚機能の低下が生じることが示唆された。 (2) 知的障害者のバランス障害の特徴の検討 知的障害者26名を対象に身体動揺の測定,歩行の測定,片足立ちの測定,平均台歩きの測定という4種のバランス測定を行った。結果は以下の通りであった。1)身体動揺については,健常者より知的障害者の動揺量は概して大きかった。また,約1分間の動揺量の時間的変動を調べた。後半の方が動揺量が増加する傾向が見られたものの,その差は有意ではなかった。自閉症者の動揺量はその他の者より大きい傾向にあった。2)運動の調節に係わる心理機能である言語の行動調整能力とバランス課題の成績との関連を調べたところ,身体動揺,歩行,片足立ちは行動調整能力との関連が明瞭であった。一方,平均台歩きに関しては,関連は見られたものの,それほど明瞭ではなかった。 来年度は,今年度得られた結果に基づいて,知的障害者のバランス障害の教育的支援について検討する予定である。
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