本研究は、周囲の他者との関係性に応じた日本人の自己高揚の方略について明らかにすることを目的とし、一連の実証研究を進めてきた。同時に、従来の比較文化研究における「欧米人は自己高揚、日本人は自己卑下」との議論に疑問を提起し、自尊心維持・高揚の方略を巡る文化差の理由を説明することを目指しており、現在も、研究進行中である。 平成11年度は、自由記述型質問紙を用いて自己と周囲のさまざまな他者(父母・きょうだい・親友・同僚、等々)との関係性の特質とその文化的特徴を描き出そうとする、国際比較研究"Self & Significant Others"について、研究を進めた。具体的には、周囲の他者それぞれについて心に浮かぶことを自由記述させるセクションと、各他者と一緒にいるときの自分について自由記述させるセクションとから成る。これは、日本・韓国・台湾・カナダ・アメリカ・オーストラリア等の多数の国にわたる国際比較研究プロジェクトの一部であり、申請者はその日本担当として、日本人大学生および成人データ(計200サンプル強)の分析を行なっている。分析は現在も進行中である。この成果から、人々が具体的にそれぞれの他者とどのような心理的関係性を結んでいるかを見出し、関係性の分類モデルの精緻化を図る計画である。 また、他者との関係性に応じて自己高揚・自己卑下、集団高揚・集団卑下がどのように現れるか、その生起メカニズムはどのようなものかについて、実験研究を踏まえた考察を行い、その成果を、台湾で開催されたアジア社会心理学会、および大阪で開催された日本グループダイナミックス学会において発表した。
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