本研究の目的は、日常的課題の解決から科学概念を学習することがどのような認知的、社会的な効果を持つのかを検討することであった。同意を得た中学校の理科授業に関して、以下の調査・分析を行った。1)理科の授業でグループごとに環境問題(例えば、自然界での水の浄化、酸性雨など)の課題解決学習(調査、実験、発表)を行った中学3年生275名に対して、授業前後で、環境問題の生じるメカニズムに関する理解、環境問題に対する意識・態度に関するアンケート調査を実施し、その内容を分析した。2)理科授業で燃焼(酸化)について学習するときの効果的な教授方法を検討するために、一方のクラス(中学1年生)では、酸化の法則を一次関数の応用課題として、問題解決的な学習をグループで取り組み(数学とのクロスカリキュラム)、他方のクラス(中学1年生)では、通常の教科書に従った学習(金属を燃焼する実験を行い、一次関数を導出する)を行った。そして、両者の認知的、社会的な効果について検討した。以上2つの調査から以下のことが示唆された。 1)特定の環境問題を取り上げた生徒主体の学習は、題材の特殊性に関わりなく、自然環境一般に対する意識を変化させた。しかし、その効果は、意識のレベルにとどまり、必ずしも行動に結びつかなかった。また、環境問題の生じるメカニズムに関する理解は、授業前後で変化しなかった。 2)数学とのクロスカリキュラム的な学習を行った生徒は、通常の教科書に従った学習を行った生徒よりも、授業後の評価課題(金属と酸素の質量比を求める)に対して、(1)比例の考えを取り入れて、質量比を求めようとする、(2)実験の誤差を考慮に入れた実験計画を立てる、といった点が顕著に見られた。また、(3)多くの生徒が数学と理科が密接に関連していることに驚き、数学の良さを再認識した。
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