研究概要 |
入所型の知的障害者更正施設における入所者間の人間関係を定量化するためのシステムの開発とその運用を行った。対象となった知的障害者更生施設W園の職員に各入所者の日々の対人行動記録を求めた。この対人行動記録はコンピュータ上の対人行動記録データベースに入力された。このデータベースをもとに日々の入所者の対人行動を肯定的(選択的)・否定的(排斥的)働きかけに分類し,週ごとに集計を行った。さらに,ソシオメトリーの技法を応用し,各入所者の施設内での地位や施設全体の集団のまとまり具合などを集計した。以上の集計はすべてコンピュータ上の自動化されたシステムを用いて行われ,1週間ごとの人間関係の様態の時間的推移が明らかにされた。 約半年にわたる集計の結果,各入所者の施設内における地位には多少の変動があるものの,おおむね安定していることが定量的に明らかとなった。しかし,施設内で強く排斥されている者は存在せず,被排斥的傾向を持つ者の被排斥の程度は施設の集団運営に影響を与えるほど強いものとは思われなかった。一方で,長時間にわたって安定して強く選択されている者も存在しなかった。今回対象となった施設内の人間関係は全般的には親和的であることが明らかとなった。また,施設内の入所者の対人行動の様態には時期的な変動が存在していた。対人行動が盛んになった時期においては選択的・排斥的傾向はともに強くなっており,対人行動があまり盛んでない時期においては選択的・排斥的傾向はともに弱くなっていた。この結果は,対人行動が盛んになる時期においては施設内の地位が低い者に対する配慮が特に必要になることを定量的に明らかにした。 以上のようにこれまで定量的には評価されてこなかった施設内の人間関係の様態を定量的に明らかにした。従来,個々の人間関係に基づいて評価されていた対人関係を施設(母集団)全体について包括的に明らかにするとともに,定性的に評価されがちであった施設内全体の人間関係の様態を定量的かつ縦断的に明らかにすることを可能にした。今後はこの定量的評価システムを施設入所者の処遇にどのようにいかしていくかとより簡便な方法による定量化の方法の開発が次の課題であると思われた。
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