本研究は、養育環境の様々な特質が、子どもの自己と他者の理解や心の理論の発達および情動経験・情動表出に関わる個人的特性の形成にどのような意味を有するかを探索しようと企図されたものである。本年度は以下二つの研究を実施した。一つは、保育園年長児18名を対象に面接調査およびその養育者に対して質問紙調査を行ったものであり、子どもの自己や他者についての語りの特質と、母親の養育スタイル、また子どもに関する認識・期待等との関連を分析・考究した。その結果、養育者が体罰等の強圧的なしつけ方略を多く用いているほど、子どもは自他のネガティブな側面に言及しやすいこと、また養育者が子どもの能力に対して高い期待を抱いているほど、子どもは白身の能力のネガティブな側面について発話しやすいこと、さらに、養育者が子どもの生活態度を重視した養育実践を行っているほど、子どもは園生活の中での様々な生活習慣について多く発話を行うことなどが明らかになった。全体として、養育者の子どもの発達に関する潜在的期待が、コミュニケーションを介して、子どもの自他理解に少なからず影響を及ぼすことが窺われた。もう一つ実施した研究は、養育環境の様々な特質(養育者の情動経験・表出スタイル・家族内の情緒的雰囲気・養育方略・愛着スタイル等)が、子どもの情動的特性(日常一般にいかなる情動を経験・表出しやすいか)にどのような影響をもたらしているかを明らかにすべく企図されたもので、幼稚園児・保育園児を持つ母親164名に対して質問紙調査を実施し、解析・考究を行った。母親の情動経験の特質と子どものそれとが相対的に近似しやすいこと、体罰や愛情撤退といった養育方略が子のネガティブな情動的特性と、また逆に理由付け方略がポジティブな情動的特性と相対的に高い連関を示すことなどが明らかとなった。さらに、母親の愛着スタイルと子の情動的特性との間にも特異な関連が見出された。
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