ソーシャル・サポートの概念は1970年代初頭の生活ストレス研究およびコミュニティ心理学を背景に生まれてきたが、近年は測定の容易さや指標の時間的な安定性といった主として操作的な理由から、むしろ対人関係に関する認知的な枠組みに近い個人内変数として把握される傾向が強くなっている。これはソーシャル・サポート研究が本来もっていた、人の健康と幸福という課題に対して他者と取り結ぶ対人関係・対人行動という個人にとって変容可能な側面からのアプローチの可能性を減じ、基礎的研究の価値を低めるものとなっている。 そこで本研究では、社会心理学における対人相互作用研究の枠組みを援用し、サポートが効果を及ぼすプロセスをより動的に把握しようとすることを意図している。すなわち、従来私が取り組んできた個人のもつサポート源の把握に短期縦断的な測定を加え、特徴的な出来事(潜在的ストレッサー)やそれにかかわる対人相互作用、出来事と相互作用による感情・気分の変動を測定し、さらには一定期間の連続的な測定の前後における主観的な健康状態についても視野に入れ、「サポート源の構造-日常の出来事-対人相互作用-感情・気分状態-健康度」という連鎖を測定の枠組みに含め、時系列的な分析をおこなうことで、サポートの効果のメカニズムを探求することが、本研究の目的である。初年度はその基礎としての先行研究の補足的レビューと関連資料の収集をおこなうとともに、まず友人関係に焦点を絞ったサポートの授受に関する複数回の調査を実施した。現在これらの資料整理ならびにデータ分析の最中であり、日常の出来事および対人相互作用とそれに伴う感情・気分状態の変化に関する調査票の骨格を構成しつつある。また次年度早々のさらなる予備調査と引き続いての本調査に向けた準備もおこなっている。
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