今年度は抗日運動また広く民衆運動に関する史料を収集するかたわら、韓国・鶏龍山での予備調査を実施した。あわせて宗教運動にかかわる資料を現地にて収集した。そうした中で、これまで行なってきた民族主義ナショナリズムにもとづく統一運動の研究の上に、上記した研究実績の一部を接ぎ木させ、現代韓国における民族主義ナショナリズムに対する知見をより深めることができた。韓国の民衆運動では国民国家ナショナリズムに立つ「正史」に代えて、民族主義ナショナリズムに立つ「民衆史」が主張されているが、そこに一貫した脈絡の一つが「抵抗の伝統」という言説である。そこには甲午農民戦争(=東学党の乱、1894年)や三一運動(1919年)等、正史を構成している歴史的事件が重要なできごととして組み入れられており、これらの根底には鶏龍山を中心とした地上天国が到来するという鄭鑑録秘訣への信仰が流れている。それは二元論的歴史意識にもとづくメシアニズム的思想であり、その力動性が具体的な運動のエネルギーになってきたことが確認された。たとえば、自分こそが来るべき地上天国のメシアであると自覚した人々が謀反を起こそうとしたり、あるいは鄭鑑録の予言が成就されるべく運動自体が方向づけられる、といった具合である。そこに宗教運動と民衆運動、ひいては統一運動の通底が見出される。さらに現在は抗日をこえ、反米のレベルでも鄭鑑録の語りが用いられている点が現地調査によって確認された。今後は"秘訣派"とよばれる鶏龍山移住者の生活史からも、上記の側面を見ていきたい。
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