研究計画においては「理論研究」と「因果モデルの構成と検証」の2側面からアノミー論の深化を図り、11年度においては後者の側面を、12年度においては前者の側面を主に対象とする計画であったが、諸般の事情から順番が逆となった。「理論研究」においては、後期デュルケームの宗教理論とアノミー概念との関連の可能性について検討した。デュルケームの宗教理論の枢軸は、社会生活を聖と俗の循環リズムにおいてとらえることにある。聖なる期間は社会統合が更新されるが、通常の規則は無視され秩序が破壊される傾向がある。逆に俗なる期間は、社会統合面においては弱いが、タブーなどの社会的規制は厳格に遵守される。『自殺論』におけるエゴイズムとアノミーは、それぞれ社会統合と社会規制の欠如ととらえられ、そして統合と規制は社会の2つの局面ということで並行的に理解されているが、これを後期の「聖-俗」理論へと接続すると、聖なる期間は統合優位-規制後退の局面、俗なる期間は統合後退-規制優位の局面として、統合と規制を循環的位相運動のうちに位置づけることができる。換言すれば、正常な社会の循環リズムにおいても、聖なる期間においてはアノミー的要素が、俗なる期間においてはエゴイズム的要素が、それぞれ潜在することになる。これは正常な社会現象としてとらえられたものであるが、病理現象としてのアノミーを理解するための基礎的視点となると思われ、この関連づけが今後の課題となる。また、贖罪的儀礼論やタブーとの関連で、「聖なるもの」と「ケガレ」が反発するというよりは、「ケガレ」と「ケガレ」とが反発し合う事例を民俗資料の中に確認した。このことをケガレとタブーの新たな原理として、規制理論の中に位置づけることが12年度の課題となる。「因果モデルの構成と検証」においては、近年における少子・高齢化の傾向を背景として、家族アノミーを構成する観測指標を整理した。
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