初年度は主に、近年の新しい宗教社会学理論の検討作業をおこなった。研究の中心としたのは、アメリカの宗教社会学専門雑誌Journal for the Scientific Study of Religionなどにおいて、R.スタークらを中心に進められている、宗教市場理論の視点からの宗教社会学的研究と、イギリスでS.ブルースらにより展開されている宗教社会学的研究である。検討の結果、前者はかつての反世俗化論を理論的に継承し、統計的手法などを駆使しながら、80年代以降の宗教の復権現象をも視野に入れた現代宗教分析の図式を提示するものであり、また後者はかつての世俗化論の立場を受け継ぎ、近代化が宗教の衰退をもたらすという理論的前提を堅持しながら、現代社会における宗教の変容を捉えようとするものであることが明らかになった。二年目である本年度は、主にスターク的な宗教社会学理論の視点から、グローバル化する現代世界における宗教の機能的変化について、収集した各種文献・資料などをもとに考察した。90年頃の冷戦体制の崩壊にともない本格化したグローバル化は、直接・間接に宗教の復権現象をもたらした。カトリックやイスラム教などは、グローバル化の波に乗って拡大しつつあるが、それらは同時に国家ブロック形成の軸にもなりつつある。また旧ユーゴスラビア紛争に代表されるような、近年の地域紛争の火種として、宗教は民族主義などと結びつきながら、重大な位置を占めるようになってきた。こうした現代宗教の諸側面を考察するために、宗教市場理論に基づく比較歴史社会学的研究が有効であることが明らかになった。現在ここまでの研究成果をまとめた論文を執筆中である。また学術的著作とは言えないが、昨年の10月から京都新聞誌上において「宗教から見る現代社会」という連載を、毎週一回全35回の予定で執筆中であり、研究成果の一部を一般の人々にも分かるかたちで公にしている。
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