2年間の初年度にあたる本年、研究代表者は行政委託と民間の立場からホームヘルプサービス派遣にとりくんでいる長崎県ボランティア協会との協働により、長崎市内における在宅介護ケースを検討し、ケース評価のシートを作成した。その際重視したのは、要介護の状態を判断する基準を、現場で自立支援にあたってきたNPOの見地、いわば生活のプロの視点と研究側の視点を重ね合わせたところから考察することであった。 本年度の作業は、まず、問題性の高いと見られるケースについて訪問およびデータ整理するところからはじめた。これまでにも在宅介護の現場では、スタッフの実際のかかわりを通して訪問ケースについての知見が積み重ねられてきたはずだが、その知見をスタッフの交代や代替も見越して組織全体で継続的に共有し検討に資するに値するデータ化を、福祉的視点による固有のものとしてどれだけなされてきたかは疑わしい。平成12年度の公的介護保険の開始に伴って要介護認定が導入され、ここではじめて、統一的基準が登場することになる。 今年度の調査において得られた重要な知見は、要介護者の状態の現状維持だけでなく「自立」にむけた判断のためには、要介護者および家族の過去にさかのぼる問題の整理が必要であること、しかしその整理にあたっては、ある一瞬における判断では不十分であり、要介護家庭と継続的にかかわってきた者によって、生活史の段階的把握とその記録が必要だということである。その際、医学的視点中心のデータと、その他の生活史的記録という、観点の異なる基準をどのように整理しシート化するかが論点となった。さらに、より客観的評価とは、当事者である要介護者や介護家族が、どの程度社会に状況を開示するかにかかわっており、そこに当事者の「参画」の実質的意味が生じるといえる。
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