本研究は、言語発達遅滞児(「通級による指導」において指導対象とされている、「話す、聞く等言語機能の基礎的事項に発達の遅れがある者」に該当する児童)の談話理解に関して、その評価及び指導法の構築を目指すものである。本年度は研究の初年度にあたり、言語発達遅滞児と教師の会話場面の収集活動を主に行った。具体的には、各地の言語障害通級指導教室(いわゆる「ことばの教室」)をフィールドとし、そこで言語発達遅滞児と教師のコミュニケーションの様子を観察・収集した。また、教師による対象児とのコミュニケーションの印象的評価も収集した。言語発達遅滞児は、語彙力、構文力等、いわゆる言語力が年齢的にみて不十分な状態にある子どもであり、このこと自体も談話理解のつまずきの一因となっていると考えられる。観察・収録したコミュニケーション場面において、その子どもが理解できる語彙や文構造で語られている談話であれば、内容に理解を示していることからもこのことは確かであろう。しかし、前後の関連(文間関係)、話者との話題の心理的共有等といったことも、談話理解を支える重要な要素であることがうかがえた。このことから、語彙力、文法力ばかりでなく、文脈からの推理力や、話者との関係性が言語発達遅滞児の談話理解の問題を考える上での視点となることが推測される。また、話者の話を複数の聞き手の一人として聞く場合と、一対一の場合とでは、理解の様相は異なっていることも予想される。次年度は談話理解の評価の観点と、談話理解を促すための方策の検討を進めたいと考えている。それにより、ことばの教室での指導法への示唆のみならず、言語発達遅滞児が在籍する通常の学級において、教師が話す場合の配慮事項も構築できると考えている。
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