「身体」をめぐる認知と実践が制度や規範をはじめとする文化・社会の諸側面とどのように関わっているのかについて、ケニア北部の牧畜民チャムスを対象とした研究をふまえて、他の東アフリカ牧畜社会との比較研究をすすめた。今年度は比較資料として、トゥルカナ(ケニア)、ドドス(ウガンダ)における現地調査で得られた一時資料を整理・分析し、また、幅広い視野からの分析を可能にするため、長崎大学医学部や京都大学アフリカ地域研究資料センター等の研究機関から、情報・資料を収集した。 成果の一部として、身体という生物学的な所与が「生」を確認する根拠となりうること、そして、そこにはともに身体をもってかかわりあう他者が不可欠に介在すること、すなわち、「身体」という生物学的な所与が人間の「生のかたち」を社会的現場において築きあげるための確固とした拠り所となりうる可能性をもちうることを示し、これを「身体という『自然』-牧畜民チャムスの認識と行為から」として発表した。また、民族生殖理論等にもとづく性と生殖の関係(生殖生理)についての認識と出産・育児の実践について「ケニアの牧畜民・チャムスの出産と赤ちゃんの身体」として発表した。 いっぽう、文部省科学研究費補助金による国際学術研究「変容するアフリカ牧畜社会の問題解決にみる内在的論理の人類学的研究」(代表:京都大・太田至)の研究分担者として、ウガンダ共和国において約4カ月間(平成11年11月5日〜平成12年3月4日)の現地調査をおこない、民族医学的知識や医療行為とともに、より一般的に身体や身体現象にたいする認識についての言語的資料(言説等)や人びとの具体的な行為・行動に関する観察データ等の一時資料を収集した。これらについては、整理作業を開始した段階である。
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