開発プロジェクトにみられる、グローバルとローカル、「普遍」と「固有」、「外来」と「在来」の問題、及び、そこに関与しているさまざまなアクター間の相互作用に関しての考察・分析を試みることが、当研究の目的である。1年目である平成11年度は、第1に、人類学者が行ってきた研究、及び、援助実施機関のプロジェクト・モノグラフやドキュメント類の収集やインタビューを行ってきたが、これらを基にした体系的・批判的レビューは次年度も引き継ぎ行う予定である。第2に、タンザニア、キリマンジャロ州の大規模灌漑プロジェクトとチャガ人の在来農法であるキハンガ・システムの間のインターアクションを事例研究として考察した。プロジェクト地は、多様な民族が入植してきた地域であり、プロジェクトの影響も多様で、各アクターにより異なる対応・戦略が考察された。また、大規模灌漑プロジェクトが往々にして制度作りを軽視し、うまく機能していないのに対し、在来のシステムは、地元で信頼された水番が公平に水分配をおこなったり、出役による共同労働中心の維持管理システムを取り入れ、うまく機能しているといえる。大規模灌漑プロジェクトの組織と在来の組織を比較すると、あまりにも異なる面が多く、両者にインターアクションは起こらず、農民が読み替えをおこなう幅も非常に限られていることが指摘できる。しかしながら、農民は一方を否定するのではなく、異質な組織を複合的に利用することにより生活の向上を目指しているといえ、こうした人々の方策に注目する必要がある。
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