本研究の目的は、階層社会としての北インド・ムスリム社会の社会構造を明らかにすることである。そのため、平成11年度は、平成7〜8年度の現地調査期間中に収集した1次資料と2次資料の整理・分析を行い、その成果を『人文学報』83号に、「北インド・ムスリム社会のザート=ビラーダリー・システム:ムスリム諸集団の序列化と差異化に関する一考察」として発表した。これは、北インド・ムスリム社会の社会構造が同ヒンドゥー社会と非常によく似た階層構造をもつ反面、社会を構成する諸集団の序列は、イスラーム的なイディオム(「系譜」概念など)によって決定されているということを明らかにするものであった。 しかしながら、この研究を進める中で、今日の北インド・ムスリム社会の社会構造およびカースト的集団の序列のあり方を十全に理解するためには、その歴史的側面についての考察が絶対的に不可欠であることが判明した。この理由として、国内外のヒンドゥー社会研究者が、ヒンドゥー社会におけるカースト的集団の形成・序列が、イギリスのインド支配の要のひとつであった「インド帝国人口センサス(「国勢調査」)」と深く結びついていたという指摘をあげることができる。これは、ムスリム社会のカースト的集団の研究にも適用できる。そこで、平成12年度は英領インド期の文献・資料を収集して分析を試みた。具体的には、19世紀後半から20世紀前半にかけて実施されたセンサスや民族誌などの植民地資料(マイクロフィッシュ)を国内大学図書館から取り寄せ、アルバイトを雇って紙焼作業を行い、ファイル化すると同時に、連合王国の大英図書館にも直接赴き、関連資料を収集した。こうして収集された資料の分析は現在進行中である。分析の結果としての研究成果の一部は、平成13年度中に2つの論文として発表する予定である。
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