本研究は、前回(平成9〜10年度)の奨励研究「島嶼空間における民間知識の民族誌的調査研究」をさらに展開させ、島嶼が外部世界との交渉・交流をおこなうこtによって、社会的知識が生成・運用される側面をより綿密に焦点化させる目的で構想された。当初の計画では、初年度より、沖縄とフィリピンの比較研究を実施する予定であったが、日程の都合上、本年度は、前回から継続しておこなっている沖縄本島でのフィールドワークを集中的におこない、沖縄側の資料について総括することとし、フィリピンにおける比較研究を次年度において集約的におこなうこととした。 沖縄本島での調査研究は、前回の科研で得た知見から、島嶼間交通に利用された「山原船」に着目することで、外部世界との交渉の側面については大枠の理解を得ることができた。すなわち、山原船とのかかわり方は、木材積み出し地であるヤンバル(国頭村奥、大宜味村)、積み降ろし地であるシマジリ(与那原町)、さらに中継地点となる読谷村、宜野座村などでは対照的であり、それぞれの場所で異なった伝承として確認できることから、外部世界との交渉活動を立体的に捉えることができる。たとえばシマジリでは、山原船のもたらす社会経済的要因に重点がおかれるのに対し、中部地域では通婚による社会関係の拡大が語られる。また、ヤンバル地方では、山原船の運搬活動に山野における木材伐採の労働者が関与することが必須であるが、この山仕事の労働者と、大宜味村あたりで語られる「ぶながや」すなわチ、キジムナー系の妖怪とが重なったイメージとなっている点は興味深い。すなわち、山原船の運搬活動にともなって、種々の社会認識の前提となるような知識が生成するのである。山原船に従事する経験をともなった者を中心に聞き書きをおこなったため、まったく関与しない者との知識の格差など、今年度は十分に展開できなかった問題もあるが、これらの展開と共に、次年度にはフィリピンとの比較研究を本格的にすすめたい。
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