本研究は時間の位相における国民統合の問題を扱った。ラテンアメリカの国ペルーを対象とし、国民国家形成においてどのように国家の歴史が構築され、それが国民統合及び国内のインディオ像形成とどのような関係にあるかを解明した スペインによる植民地支配を受けたペルーの独立の中心となっていたのは新大陸の先住民族ではなく、クリオーリョと呼ばれる新大陸生まれの白人であった。クリオーリョたちはその後の国民国家建設においても主導的役割を果たしてきた。このため、ペルー国家の歴史は人種・民族等の出自によってではなく、国家の空間領域を基盤として構築されてきた。国家の歴史はクリオーリョやアフリカから奴隷として連れてこられた人々の子孫である黒人を包含するかたちで、領域内に展開してきた先住民族の古代文明との連続性において物語化されたのである。ペルーにおけるインディオ像もこのような歴史観との関係において形成されてきた。現在のペルーにおいて古代文明の称揚は必ずしも現存するインディオへの評価にはつながらない。インディオは古代文明の担い手としての歴史的存在として扱われる。そして現存するインディオは民族的かつ文化的独自性をもつインディオという存在としてではなく、農村部においてはスペイン語で農民を意味するカンペシーノとして生業によって位置づけられ、都市部においては国民化の過程にあるチョロという存在として位置づけられる。ここにはインディオをめぐる同化と国民化の巧妙なレトリックが隠蔽されている。また、国家のエリート層とインディオの間にはヘゲモニー間係が成立しているが故に、国家のこのような論理はインディオ自身の自画像形成にも影響力を与えている。 今後の展開としては、インディオの国民化とチョロ概念の関係を歴史的に考察していく。
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