本年度は、第一に本研究を進めていくうえで必要な基礎データの集積をおこなった。検索の対象とした文献は、(1)『滋賀県漁業史』(滋賀県関係に限定せず、漁業に関する古文書・古記録・文学作品のデータを漁業技術ごとに収載)、(2)『平安遺文』(平安時代の古文書を網羅的に収載)、(3)『鎌倉遺文』(鎌倉時代の古文書を網羅的に収載)、(4)『山家集金槐和歌集』(日本古典文学大系)、(5)『平安鎌倉私家集』(日本古典文学大系)、(6)「弥生時代以降の瀬戸内地方の漁業の発展に関する考古学的考察」(『瀬戸内海歴史民俗資料館紀要VII』)、(7)「瀬戸内地方の網漁業技術史の諸問題」(『瀬戸内海歴史民俗資料館紀要IX』)、(8)「瀬戸内地方の網漁業技術史の諸問題(続)」(『瀬戸内海歴史民俗資料館紀要X』)の8点で、検索したデータの一部はパソコン入力をおこないデータベース化した。それと並行して、この作業で得られた史資料の内容分析も随時進めつつある。 第二に、平成12年3月2日から5日間にわたり、長崎県五島列島において現地調査に臨んだ。五島列島は中世の水域環境に関する情報に富んだフィールドであるが、この調査では、(1)教育委員会や図書館・歴史民俗資料館での歴史文献の収集、(2)役場や法務局での地図類の収集、(3)漁協での水産資料の収集、(4)郷土史家、漁業者からの聞き取り、(5)旧家での古文書探訪、(6)史跡や水域の現地調査、などを実施し、五島列島の水域環境とその歴史的背景に関する多くの知見を得ることができた。なお、本調査は日本中世史・水産地理学・海洋人類学の3分野の研究者による合同調査として実施されたため、他の学問的手法を学ぶ絶好の機会ともなった。
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