研究概要 |
これまでに収集した史料を概観した結果、現在のところ次のように課題を分割して検討を進めている。 1,本家-領家層の動向について。 公家・寺社の旧蔵文書及び記録類の検索を行い、この課題に関連する幾つかの知見を得た。例えば、中世前期の本家と領家の関係については、鎌倉後期の徳政によって断ち切られていく点が重視されてきたが、そうした中で管領者-知行者の関係が新たに構築されている所領もあることが判明した。また同時期における彼らの仏事や造作などのための課役は、徴収が困難になる一方、知行没収をほのめかせながらの強制的賦課がなされている。今後さらに史料収集と検討を行い、収取体系の上層部の変容過程を明示したい。 2,荘官等の役割について。 武家文書や地方寺社の文書なども含めて検索した結果、権門旧蔵文書の検索のみでは視野に入り難かった、荘園・公領の在地経営に関する文書が収集し得た。それらは、年貢・公事の賦課・徴収、訴訟などに関わる内容をもつが、より具体的な分析を行うためには、個々の荘官や地頭、郡司など、在地経営の実務を担当している層についての検討が必要であると考えている。今後、収取体系上におけるこの階層の人々の役割とその変化について、先行研究における議論も踏まえて考察するとともに、関連史料をさらに収集する。 3,個別所領群について。 東京大学史料編纂所その他の史料所蔵機関に出張して調査を行い、重要な史料については写真で収集した。現在それらの整理・検討を行っているが、例えば天龍寺文書についていえば、天龍寺そのものの所領群の概要を示すのみならず、同寺とつながりのあった権門の所領に関する情報も含んでいる。今後、史料の検討をさらに進めるとともに、引き続き原史料の出張調査を行う。 なお、上記の課題1〜3は互いに関連しているので、今後も課題間で成果を活かし合いながら研究を行いたい。
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