従来の衛府制度研究では、あまり行われていない儀礼論との関わりでの衛府、特に近衛府の任務、行動について研究を深めた。拙稿で近衛府の儀礼における演出機関としての行動を指摘したが、まず、『西宮記』、『北山抄』、『江家次第』等の儀式書から、近衛府の関係する儀式を抽出した。儀仗、演舞等の機能が主で、近衛府の演出が一つの柱となっている点を確認できた。次に、右近衛大将の任にあった藤原実資の日記『小右記』から、右近衛中将であった源雅通の行動を抽出し、彼の行動を細かく分析することにより、彼の近衛府での位置、すなわち、近衛府の実務運営業務を行っていることを認識した。彼のような任務を帯びている中将を年預中将(政所中将)と呼ぶことは、拙稿でも指摘はしたが、詳細な分析はしていなかった。年預中将は、まさに近衛府運営の中枢である。入事、財政、儀式参加のための準備と、いってみれば組織の事務局長の役割を有している。しかし、このような年預中将の報酬についてはいまだ解明されていない。彼は中将時代、丹波国国司に就任しているが、この国からの莫大な税収入を年預中将の報酬と推測している。この点については、今後検討していくつもりである。また、今回、源雅通に焦点をあてたが、他の年預中将も存在する。『玉葉』、『長秋記』、『明月記』等の古記録から、近衛府関係の史料を抽出して、他の年預中将の例も検証していかねばならない。儀礼そのものの変化との対応で、大将と年預中将を中心して近衛府がどのように機能し、その儀礼自体が近衛府の演出によって国家にとってどのような影響をもたらすのか。今後、抽出した史料を検討、分析し、明らかにしていこうと考えている。
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