当初たてた研究計画は、(1)組合村-惣代庄屋制の解体過程の解明、(2)取締役など特権的豪農の活動の解明、(3)明治地方自治の解明、の3点を柱としながら信州幕領をフィールドとして分析を深めると同時に、他地域との比較研究も行うというものであった。今年度はポイントをしぼって上記課題の(2)について集中的に検討した。まず第一に、郡中取締役の阿部家について金融を中心とした経済的活動のあり方を検討し、同家は18世紀半ば以降諸領主や酒造家への大口貸金などによって経営を伸ばし、18世紀末に領主貸が行き詰まると、当時盛んになりはじめた繭・綿・細美などの農間商いを行う南佐久の百姓たちを相手にした商仕入金などの貸付を急増させて、一層の経営発展を遂げたこと、天保期後半に貸付が停滞すると資金を土地集積に振り向けて地主経営にウェイトを移し、金融も貸出対象の範囲を上層に限定して継続したこと、このような活動が明治期の伊那県商社、第19国立銀行などに関与する前提となっていること、などを明らかにした。第二に、この地域の政治構造については上記のような阿部家を一つの核とするような経済構造とはあまり関係なく、年番名主制や組合村制などが展開していく傾向があるが、文久期以降社会情勢が緊迫していく中で郡中の豪農層が郡中取締役に就任し、政治的な秩序のあり方に大きな変化をもたらしたことを明らかにした。この問題は課題(3)の「明治地方自治の解明」にもつながっていくテーマであるが、見通しを持つにとどまったので今後の課題としておきたい。 なお、以上の成果の一部を組み込みながら歴史学研究会2001年大会で「地域社会構造の変容と幕領中間支配機構」という題のもとに報告を行う予定である。
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