本研究は清、そしてその制度をほぼそのまま引き継いだ中華民国期における土地と国家の関係を、土地・徴税台帳をもとに考察することが目的であった。従来の研究は主に社会経済的観点からこれらの資料を扱ってきたが、資料自体が如何なるものか、資料間の連関はどうなのかという点は看過されてきたし、国家との関係を示す徴税台帳については全く研究がなされてこなかった。以上の点を踏まえ、各種の土地・徴税台帳がいかなるものであったかを明らかにし、土地・徴税台帳の体系全体のなかでどういう位置を占めていたのか、それぞれの台帳はいかに関係しあっていたかを解明して上記の問題に迫った。 「江南農村社会の土地と徴税」では魚鱗冊を対象とした。魚鱗冊は土地台帳として広く知られるものであるが、それは単に測量データを転記したものではなく、官民を問わず土地に関わる人々らが「創り出した」ものであることを明らかにした。 「清代の賦役全書」は徴税の公的数字を決定する賦役全書の土地税額の算出法について論じたものである。税額は測量に基づくものであったが、実際には前王朝の明の賦役全書をそっくり踏襲したに過ぎない。実際の数字がどうあれ、公的帳簿の数字こそ「真実」であり、それを用いることで徴税の正当性が確保されたことを示した。 「実徴冊と徴税」では、徴税の際に実際に用いられていた実徴冊なるものが如何なるものか、そして如何作成され、活用されたかを明らかにした。また実徴冊が土地秩序に与える影響について考察した。 「呉県・太湖庁の経造」では、清代から民国期にいたる徴税請負人の実態およびその変遷を明らかにした。
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