本年度は、宮廷典範書『アーイーネ・アクバリー』を良写本との校合とともに解読を進めた。その作業を通じて、ムガル朝貴族の俸給階層制度マンサブ制度にかかわる『アーイーネ・アクバリー』の記録が、必ずしも現状を反映したものではないこと、したがって制度史史料としての同書の位置づけに再検討が必要であることが明らかとなった。(この点は『西南アジア研究』の掲載論文に発表)。また『アーイーネ・アクバリー』については、写本との校合および解読の成果と併せて、ペルシア語の知識を備えた専門家の補助を得て、電算機入力をおこなった。この作業は来年度も継続する。なお、ペルシア語の電算機処理のノウハウについては、12月の「全国文献・情報センター人文社会科学学術情報セミナー」で示した。 また財務官僚の業務要領書「ダストゥール・アル・アマル」の諸写本のマイクロフィルムを、大英図書館およびオクスフォード大学ボードリアン図書館から将来し、そのうち7点を焼き付けた上で、現在その内容を整理検討中である。その内容は、租税統計、文書書式集など多岐にわたり、制度史、経済史のみならず古文書学の立場からも、史料的価値がきわめて高いことが明らかとなった。これらの写本の多くは書写年代が不明なので、編纂の過程や編纂の年代の特定を第一の課題として検討を進めた。そしてこの種の文献について、歴史的意義の把握と史料的価値の位置づけを最終的な目標としているので、最重要の写本については批判的テキストの作成をも視野に入れ、電算機入力と並行しつつ整理を進めた。
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