研究代表者は今年度、昨年度中に入手した、行政業務要領ジャンル『ダストゥール・アルアマル』の諸写本のマイクロフィルム複写の整理・検討を継続した。また十六世紀に成立した宮廷典範書『アーイーニ・アクバリー』の一部を、校訂本と良写本のテキストとの批判的な校合を行いつつ、電算機入力を行った。その一部はすでに研究に利用している。 その成果の一部として、[論2]を発表し、ムガル朝アクバル時代のある主要な歴史書に見える年代の錯誤について論じ、その史料についての写本研究の必要性を示した。これは、ムガル朝時代の制度史研究にかかわる基礎作業のひとつである。また[論1]においては、本来「ティムール」朝である上記王朝が、インドにおいて「ムガル」朝と呼ばれた背景をさまざまな史料から論じた。王朝の系譜意識にかかわるこの問題は、制度史研究にも密接に関係する。 またアクバル時代の貴族によってペルシア語で書かれた回想録『アフワーレ・アサド・ベグ』について、すでに別の経費で入手してあったマイクロフィルム複写を参照して、検討した。制度史研究の上でも重要なこの史料は、いまだ公刊されていないため、その批判校訂本の刊行を視野に、研究を行った。これに関して、未見の同書の写本を閲覧するため、インド、ハイデラーバードのアーンドラ・プラデーシュ州政府東洋写本図書館に赴いた。その結果、同図書館所蔵の写本が、現存するもののうちではもっとも古く、かつテキストも正確な良写本であることが判明した。同写本については、滞在期間中にすべて手写し、ごく一部について電子複写の提供を受けた。 また、個々の制度史関係史料の調査において、研究代表者の属する機関にて利用できない文献の調査のために、東京大学などにおもむき、いくつかの資料については複写の提供を受けた。 【以上、754字。文中、[論1]等は、次頁項目11の研究発表論文に対応。「論」は雑誌論文。数字は登場順。】
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