研究概要 |
今年後は,中世末期のネーデルランド(低地)の地方支配層をめぐる諸問題の中でも、地方支配層の主張する自立主義(パルティルキュラリスム)と、ブルゴーニュ家の君主権力による中央国家の関係を明らかにしようと試みた。その際、題材として取り上げたのが、1477年のいわゆる「大特権」である。 「大特権」は、ブルゴーニュ公家の女子相続人マリーの即位時に、低地の全国議会が請願書を提出し、それをマリーが承認・授与した文書である。この文書をめぐる比較的最近の諸研究から、報告者は、「大特権」が、全国議会に集まった各領邦の代表者たち、中でもフランドル人の意図の表明されたものではないかとの示唆を得た。そこで、「大特権」の成立過程と内容をフランドル人立場から検討することで、彼らの構想した「ブルゴーニュ国家」の在り方を検出しようとした。 「大特権」の元となった全国議会の請願書が、フランドルの領邦請願書と平行して作成されたこともあり、全国議会の中で主導権を握っていたのはフランドル人であった。このフランドル領邦特権との関係から「大特権」の内容を分析すると、地方当局を基礎とする国制が浮き彫りになるが、同時に、大顧問会や全国議会に関する規定から、地方や領邦を越えた中央国家のまとまりが必要とされていることがわかる。最も強く自立主義を抱いていたといわれるフランドル人は、ブルゴーニュ家の支配が進展する中、領邦・地方の自立性と両立するような形で中央国家を構想したのである。
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