十八世紀末から19世紀初頭にかけてのソーシャル・リフォーム運動を牽引したクラパム派は、従来福音主義やミドル・クラスの価値観を体現しており、かれらの活動は、イギリスの工業化の結果、ミドル・クラスが台頭してきたことを象徴するものととらえられてきた。しかし、クラパム派の実態についてはこれまで必ずしも具体的に把握されてこなかった。今年度はまず、かれらが具体像を明らかにすることで、かれらが本当にミドル・クラスの台頭を象徴する存在であるのか否かについて検討することにした。 昨年度に引き続き、奴隷貿易廃止運動などのソーシャル・リフォームの指導者たちや、国教会伝道協会の設立者等、クラパム派にかかわりのある活動や団体の刊行物からメンバーを特定し、かれらの理念をたどった。その結果、かれらが社会の上層部に属しており、ラディカルな社会改革を主張した人々ではないことや、かれらの提示した「福音主義」と、たとえばメソディストなどが主張するそれとはことなっていること、そうした違いがソーシャル・リフォームにたいする取り組み方の相違となってあらわれたことなどが明らかになった。また、クラパム派の示した「福音主義」理念が、それが後のイギリスにおけるパターナリズムの変化にいかなる影響を与えたのかについても考察した。
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