15世紀末から16世紀初頭のイングランド人文主義者たちウィリアム・グローシン、ウィリアム・リリー、トマス・リナカー、ジョン・コレット、トマス・モア、エラスムスの他に、カスバート・タンスタル、ジョン・フィッシャー、リチャード・フォックス、ジョン・ホルト、トマス・ラプセットらの調査を試みた。史料の収集調査や従来通りの調査研究は進んでいるが、テキスト化は十分でない。道徳観、世界観、修辞学観に関する観点等すべてを十分に調査することはできず、「価値観の共通な枠組み」を明確化するところまでは進んでいない。彼らが影響を受けた同時代のフィレンツェの人文主義思想や北方ヨーロッパの人文主義思想との関連の中で彼らの思想を考察する必要が明らかになったので、ピコやイングランド外のエラスムスにも考察を広げた。これらの影響を受けながら、彼ら独自の価値観の枠組みがどの程度みられるのかが、重要な視点となる。修辞学や人文主義教育をめぐる論議は、擁護派と反対派という二元主義を止めてその中の差異を考慮するならば、当初想定していた修辞学の古典的価値観だけを考察対象とするだけでは十分把握できないことも明らかとなった。歴史観を直接扱った議論は彼らの間で想定していたほど活発ではなかったので、聖書解釈をめぐる議論の背景も含めて、歴史観を検討する方向を目指すこととした。また思想の共通性だけでなく、職務や宮廷と関わりの中での彼らの繋がりを重視して、思想運動以上のものとして彼らをとらえる必要性も見えてきた。彼らの対抗勢力グループを明確化し、これと比較考察することも新たな視点である。史料収集の早期の完結やテキスト化による調査効率化等の作業上問題の解決、「価値観の共通な枠組み」の考察は、今後の研究展開の中で行なっていく。
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