研究概要 |
青少年問題(juvenile problem)が貧民問題の枠を越えたひとつの社会問題として重要視されるようになった19世紀後半,かれら若者を「正しい」方向に導くために,教育的内容を盛り込んだ各種の少年雑誌が数多く創刊された。本研究では,その中でも代表的な『ボーイズ・オウン・ペイパー(Boy's Own Paper)』の誌面分析を行った。その結果,創刊初期においてこそ,同誌の発行母体である宗教冊子協会の保守的な倫理観・価値観が編集方針に色濃く反映されていたものの,読者である少年たち自身からの要望や,彼らにたいする大人たちの要請をうけて,次第に誌面が変化していったことがわかった。当初RTSが重視した宗教教育や旧来のパブリックスクール教育の基本であったギリシア・ラテンの古典教養といった要素は後退し,電気・蒸気をはじめとする当時の科学・技術についての実学的情報や,移民や軍への入隊・官僚試験などを中心とした海外情報,チャリティやボーイズ・クラブ運動などの社会活動についての企画などが増加してゆく傾向がみられるのである。少年雑誌のこのような変化は,イギリス社会全体のなかでの青少年という存在の位置付けの変化を背景としていると考えられる。教育機会の拡大や選挙法改正などによって,少年たちは,たとえ労働者階級にあってもすべからく,やがてイギリスを担う「シティズン」となることが約されるようになっていった。彼らが学齢期を終えようとする時期に読んだ少年雑誌は,シティズンの義務たるパブリックな世界への参入にむけて,学校教育を補完するかたちでその橋渡しをするという役割を担うメディアとなったのである。
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