研究概要 |
クック諸島の島々は、西欧文明と接触して以来二百年余りのあいだに固有の伝統文化を急速に失ってきた。それは、局所的な生態系の中で過去千年余りにわたって、島民の働きかけや意味づけを通して育まれてきたローカルな文化景観の消失を意味する。本研究は過去七回にわたる現地調査のデータにもとづく。研究の目的は、マラエと呼ばれる石造の祭祀建造物を分析の中心に据えて、民族誌等の資料をコンテキストにしながら、そこに込められていたさまざまな意味を読み解くことにあった。具体的な作業では、祭祀遺跡にかかわる様々な情報(写真・図版等画像資料、形態上の諸特徴、立地、周辺植生、関連する民族誌情報)のデータベース化を進め、ラロトンガ島、トンガレヴァ環礁についてほぼ完了した。 平成12年度には人文主義地理学の近年の動向を参照し、トンガレヴァ環礁におけるマラエを「場所」という視点から論考し、以下の結論を得た。(1)トンガレヴァ環礁の先史社会は社会・政治的に自立した複数のリネージ集団(フアアンガ)からなる分節社会であり、マラエは個々のフアアンガに属していた。(2)マラエを構成するさまざまな要素(方形の区画、立石、基壇など)は、フアアンガ内部の成員間に張り巡らされた社会関係と密接に関連していた。また、マラエの儀礼で顕在化するこうした関係は、様々な生活資源の管理や分配の基礎となっていた。(3)マラエは、資源を巡るフアアンガ間の利害関係が交差する場でもあった。 マラエはさまざまな社会関係が交差する場であった。その行為を顕在化する諸行為はマラエに多様な意味を付与し、マラエにかかわる物質性(形態、地形、植生など)とこれらの意味が絡み合うことによって,トンガレヴァ環礁社会に特有の文化景観が形成されていたのである。
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