平成12年度研究実績として、前年度に実施した復元実験を含む研究成果について、第22回文化財保存修復学会においてポスターセッションによる発表を行った。また、消し象嵌に関連する象嵌技法の調査の継続と、2年間の研究成果のまとめとして復元モデルの製作を実施した。 文化財保存修復学会の発表では、11年度に実施したテストピースによる復元実験の成果を中心に発表を行った。テストピースは金糸象嵌と金アマルガムによる象嵌(金銷し)による2点と、銀糸象嵌と銀アマルガムによる象嵌(銀銷し)に、それぞれ金アマルガムと金箔による表面処理(金銷し)を実施した6点の合計8点を製作しており、ケイ光X線分析と電子線マイクロアナライザー、および電子顕微鏡による観察をそれぞれに実施した。その結果、銀アマルガムによる象嵌に金アマルガムによる表面処理を行ったテストピースが、最も遺物の分析結果に類似しており、調査対象遺物が消し象嵌技法であることをほぼ確定することが出来た。 象嵌技法の調査については、永青文庫所蔵の金銀錯盤と筒の2点について調査する機会を得ることが出来た。2点とも中国の戦国時代の青銅器と酷似しており、特に筒のほうには金銷しによる滲みのような状態が所々確認出来た。また、調査対象資料に施された象嵌の文様が饕餐紋に類似していることが判明した。 復元モデルの製作では、実際に遺物に施された状態に可能な限り近い状態で消し象嵌の復元を実施した。まず素環頭を含む柄の部分を復元し、鏨で溝を掘り、銀アマルガムによる象嵌を施し、その上に金アマルガムによる象嵌を施した。文様自体は柄の部分の鋸歯紋と素環部分の饕餐紋と考えられる文様の一部を復元した。製作したモデルは今後、資料としての活用を考えて、遺物と一緒に展示する予定である。
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