本年度は、否定のスコープ・フォーカス現象について以下の点を明らかにすることができた。 1 否定のスコープという概念は、否定の意味を含めた文の意味の解釈(計算)にとって明らかに必要・有効な概念である。 2 一方、否定のフォーカス(焦点)という概念は、その有効性に大きな疑いがあり、少なくとも従来の否定のフォーカス必要論の根拠は非常に薄弱である。 3 先行研究で「否定のフォーカス」と呼ばれているものの実体は、一つは「前提・焦点構造(情報構造)」の焦点、もう一つは対比のハによってとりたてられるものであるが、いずれも、否定形式の存在に依存するものではなく、一定条件の元では文であれば必ず存在するものである。また、対比のハでとりたてられる部分は、最終的な論理構造ではスコープ内に入るが、言語形式の初期解釈レベルでは、スコープ外にあり、否定と対比の語用論的効果によって、論理構造内での解釈が最後に得られることになる。 また、次年度に向けて、否定形式とアスペクト辞との共起の実態について、現代語・古典語(平安時代語)のデータベースを、それぞれ5000文程度の規模で作成した。
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