天台宗寺門派実相院は、寛喜元年(1229)今の京都市左京区小川通今出川に創建され、大納言鷹司兼基の子静基僧正をその開基とし、今の寺地には応永18年(1411)に移されている。その前進である実相房は園城寺(三井寺)内にあり、貞元3年(970)の実相房本主崇寿より始まり、その時代を含めれば実に千年にも亘る歴史を有する。その歴史から、実相院には平安時代から江戸時代までに亘る3000点以上もの文書・典籍が存しており、その内容は多岐に亘る。経典や佛教関係書は天台宗寺門派のものを中心として、儀式・作法に関するものや訓点資料(西墓点を中心とする)の存在など、当時の活動の実態を解明することが期待される。また、実相院は朝廷や室町・江戸幕府との関係から天皇・将軍の自筆書状や当時の政治・経済・社会・文化を窺わせる古文書、また、新発見の門跡日記は江戸時代を通じた歴代門跡の記録として注目される。更には、江戸時代初期の義尊僧正と宮中との深い関係からこの時期に国文学資料として注目されるものが多く書写・収集されており、流布本系とは異なる異本系統の本文が多い。以上の如く、実相院の文書・典籍は仏教史学・日本史研究や国語学・国文学研究の上で重要な資料であることが確認され。本研究においては、申請の2年間で3000点以上も存する典籍全ての調査を行うことによってデータベースの作成とインターネット上での公開を目指し、併せて、他所に蔵されている異本との比較を行うことによって実相院本の位置付けを行っている。そのような認識のもとに、本年度は、文献調査と異本との比較、またそれを踏まえたデータの入力作業を行っている。その成果の公表は来年度に出版の形で行ない、それに向けて現在作業中である。
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