今回「郷土文学」を研究テーマとして取り上げた理由として、魯迅を取り巻く環境にいま一度スポットを当て、新しい切り口から詳細に検討し直す作業を行うことによって、当時における「魯迅文学」の意味、位置を改めて明らかにする必要があると考えるに至ったことがある。以上の観点から、今年度は魯迅の周縁という視点を一つの中心としながら、比較文化的な視野から対象範囲を拡大し、これまで光を当てられなかった方面に特に注目した。魯迅を含む中国近代文学の萌芽を準備した清朝末期の小説の再評価、また、これまで種種の要因から表だって光を当てられることのなかった日本文学の魯迅文学に与えた影響、等々の方面から新たな論究を試みた。また、中国大陸へ赴き、魯迅並びに郷土文学関係の資料発掘、現地調査を行った。現在、整理研究、継続調査中である。また、郷土文学を含む中国近現代文学の翻訳紹介にも従事した。近代郷土文学作家の徐玉諾、汪静之などの作品を順次翻訳中であるが、同時に、現代のベストセラー作家であり、郷士文学的要素を多分に有するエッセイスト、余秋雨氏の著作の翻訳(共訳)を行い、これについては来年度中にも出版予定である。
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