平成11年度は主に、1950年以降科学的に発掘された墳墓などの報告書の中から文字資料を抜き出し、整理するという作業を中心に研究を進めている。これは、漢字の書体を分類しようとするときに、従来の資料だけでは再分類ができないが、科学的な発掘資料に見られる文字も十分に整理されていないからである。近年出土の資料にこだわるのは、それらが紛れもない第一次資料であるため偽物が混じることはなく、かつ出土状況や墳墓全体の状況が細かくわかり、文字を取り巻く環境を捉えることができるからである。 文字変遷の内、注目すべき時代は秦・漢時代であり、特に後漢時代の文字資料は、隷書から草書・楷書・行書などの現在の書体分類がほぼ出そろう時期のものとして特に重点的に収集を進めている。整理途中であるが、書体の変化は肉筆書が先んじて変化していくものであり、肉筆の字形を刻石類がいかにまたいつ受容していくかを探っていけば様式分類の変化につながっていくのではないかという仮説を立てることができた。 様式化を進める上で、注意すべきは比較の基準をどうするべきかであり、やはりその時代の実物資料に頼らざるを得ないのが現状である。文字は元々すべて手で書かれたものであるため、その書きぶりや字形は千差万別である。特に肉筆書と総称される文字は相当に細かい分類が必要になってくる。近年出土の文字の収集により、篆・隷・楷・行・草という簡単な枠組みでは分類しきれないことは確認できたが、これをいかに再分類するかが次年度の課題となる。
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